ヘルニア 知識②

ヘルニア 知識②


腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインによると、診断基準は以下の通り。

1.腰下肢痛を有する(主に片側、ないしは片側優位)
2.安静時にも症状を有する
3.SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
4.MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄を合併していない
5.症状と画像所見が一致する

引用:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

また、正中型と外側型では症状も変わるので注意するポイントです。

ヘルニアの方の主訴として多いのは、腰下肢痛や痺れですよね。
それに焦点を当て、痛みや痺れを改善するには?という視点で書き進めていきます。

ヘルニアによる痛みや痺れが起こる原因としては以下の3つです。

  1. 神経根に炎症が生じている
    対応する筋肉の感覚異常や筋力低下による、二次的な軟部組織へのストレスやアライメント異常によるストレスの結果
    3.ヘルニア以外に腰下肢痛を引き起こす要因がある

 

個人的には急性期のヘルニアの痛みは神経由来のものですが、慢性化したものは本来のヘルニアによるものとは区別して考えるべきだと思っています。

何故なら、神経は生理学的に圧迫で痛みは起こりません。
機械的なストレスで炎症が起こっていると、神経は痛みを感じます。
急性期の痛みはこれに該当します。

なので、慢性期の痛みは上記の原因の2と3に該当します。

何故神経が圧迫されても痛みが起こらないかと言うと、本来、神経繊維は末端の受容器(筋、筋膜、腱、皮膚、靭帯、骨膜)からの情報を中枢へ伝達するための組織です。

ヘルニアの場合、末梢から中枢までの途中で圧迫が起こっているわけで、神経繊維の途中で圧迫されて痛みを感じるということは、圧迫部位から末梢へ痛みが伝達されているということです。

本当にヘルニアによる圧迫で痛みが起こっているなら、手術で圧迫を取り除けば100%痛みは良くなるはずですが、そうならない方が多いです。
これはヘルニアが原因じゃなかったからそうなるのです。

例外として、異所性興奮が起こった場合は別ですが、基本的にはヘルニアによっては痛みは起こらなくて、炎症によるものが可能性としては高いです。

じゃあ何を考えないといけないかと言うと、そもそも何故ヘルニアが起きるくらい腰椎へ負担がかかったのかということ。

ヘルニアは外傷ではなく、慢性的に腰椎へ何らかの負担がかかっていたから発症します。
なので、その原因を探る必要があるということです。

ただ、ヘルニアによる症状もしっかりと把握しておくべきなので、好発部位であるL4/5、L5/S1に絞って以下にまとめました。

ヘルニアの部位と症状は一致しているのかどうか、これは必ず評価しておきましょう。

もし、一致していないのであれば、筋・筋膜などの影響による二次的な要因が大きいということが考えられます。

何故腰椎へ負担がかかってしまったかを考える際、腰椎の上下にある胸椎と股関節を評価しましょう。

特に股関節周囲の筋群はヘルニアでよく訴えを聞く痛みの臀部〜大腿外側とも一致するため、実は股関節周囲筋群の筋スパズムやトリガーポイントが原因だったという経験も少なくありません。

身体全体を見ると、腰椎を胸椎と股関節で挟むようにして位置しています。

両者はどちらも回旋可動域が大きく、対して腰椎は回旋には乏しい。
ということは、両者の回旋可動域が低下すると腰椎で代償してストレスがかかる可能性があるということ。

また、腰椎の椎体一つ一つに椎間関節が存在し、それぞれがわずかに動くことで負担を一箇所に集中させることなく分散させています。

腹直筋や脊柱起立筋といった大きなアウターマッスルでは椎間関節の細かい制御は不可能で、アウターマッスルメインの運動では、必ずどこか局所的に負担が強くかかってしまいます。
それが好発部位でもある、L4/5、L5/S1なのです。

腰痛=腹筋というイメージが未だにある方もいますが、闇雲に腹筋や背筋運動を指導することが必ずしも良いわけではないのです。

多裂筋や回旋筋、半棘筋などの細かい筋肉や腰椎と股関節に付着する大腰筋といったインナーマッスルによる細かい制御があってこそ、アウターマッスルが効果的に機能することができます。

アウターマッスルがバリバリに働いている状態で上記の胸椎と股関節を代償して腰椎に過剰な負担がかかるとどうなるかなんとなくイメージできますよね?

トリガーポイントの形成も共通した部分があり、アウターマッスルなどを繰り返し過剰に使用するような姿勢や動作パターンとなることで、トリガーポイントや筋膜の歪みが作られていきます。

要は偏った姿勢や動作となっているということ。

これも腰椎椎間関節が一つ一つ動くこと、胸椎や股関節に制限がないこと、多裂筋や大腰筋といったインナーマッスルが機能しているという条件が揃えば、トリガーポイントが形成されるような負担も簡単にはかかりません。

まとめるとポイントは以下の3つです。

・腰椎一つ一つに可動性があるかどうか
・胸椎、股関節に制限がないかどうか
・腹直筋、脊柱起立筋を過剰に使わず、多裂筋、大腰筋が機能しているかどうか

 

僕がよくアプローチする部位を中心に治療部位と方法を解説します。

大腿筋膜張筋

トリガーポイントは筋腹の中央辺りに出現。
関連痛は大腿外側に出現。

後方の中臀筋、前方の大腿直筋との滑走障害が起こりやすい。

前者は持続圧迫、後者は筋間に指を入れつつ股関節運動。

中臀筋

トリガーポイントは起始部の腸骨稜外側辺り、関連痛領域よりやや外側に出現。
関連痛は臀部全体の深部に出現。

前方の大腿筋膜張筋、後方の大臀筋との滑走障害が起こりやすい。

大臀筋

トリガーポイントは仙骨付近、坐骨結節付近に出現。
関連痛は臀部全体に出現。

前方の中臀筋、下方のハムストリングス・大内転筋との滑走障害が起こりやすい。

大腿二頭筋

トリガーポイントは筋腹中央辺りに出現。
関連痛は大腿後面外側〜膝窩辺りに出現。

上方の大臀筋、遠位部で短頭と長頭、外側で外側広筋との滑走障害が起こりやすい。

前者は持続圧迫、後者は筋間へ指を入れつつ膝関節運動。

半腱・半膜様筋

トリガーポイントは筋腹中央辺りに出現。
関連痛は臀部〜大腿後面内側〜下腿後面内側に出現。

上方の大臀筋、全域で半腱様筋と半膜様筋、内側で大内転筋との滑走障害が起こりやすい。

外旋六筋

梨状筋の下を坐骨神経が走行しているため、外旋六筋による坐骨神経への影響も考えられる。

股関節屈曲+内転+内旋→外閉鎖筋、大腿方形筋
股関節屈曲+外転+内旋→それ以外の筋群

上記の肢位へ誘導すると、それぞれ筋肉が最も伸張されるため、その位置でストレッチや等尺性収縮をかける。

徒手的なアプローチの次は必ず運動療法も指導します。

・ヘルニアの痛みは、急性期は神経周囲の炎症、慢性期は筋・筋膜性の可能性が高い
・腰椎へ負担がかかってしまう原因を考える
・腰椎の上下にある胸椎、股関節の影響を考える
・トリガーポイントと筋の滑走性を改善する
・運動療法で運動学習を促す

 

そんなに難しく考える必要はなく、筋・筋膜によるトリガーポイント、滑走性を改善し、運動療法までしっかり指導する。

腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドラインによると、診断基準は以下の通り。

1.腰下肢痛を有する(主に片側、ないしは片側優位)
2.安静時にも症状を有する
3.SLRテストは70°以下陽性(ただし高齢者では絶対条件ではない)
4.MRIなど画像所見で椎間板の突出がみられ、脊柱管狭窄を合併していない
5.症状と画像所見が一致する

引用:腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン

そして、神経痛の定義は以下の通り。

神経の損傷により、末梢神経の機能異常の症状を伴って現れる痛み。

症状としては、以下の通り。

・疼く痛み
・灼けつくような痛み
・乱切り痛で、より強い突き刺されたような痛み
・電撃痛
・阻血解除後に感じられるような異常感覚、ジンジン感、ビリビリ感

ヘルニアでは、神経の圧迫はあっても損傷しているわけではないので神経痛には当てはまりません。

神経の圧迫では感覚異常や筋力低下はあっても、神経が痛みを知覚しているわけでないのです。

では、何故ヘルニアによって痛みが起こるのか?

考えられる要因としては、以下の3つ。

・神経根に炎症が生じている
・対応する筋肉の感覚異常や筋力低下による、二次的な軟部組織へのストレスやアライメント異常によるストレスの結果
・ヘルニア以外に腰下肢痛を引き起こす要因がある

 

そもそも、正常な脊髄神経は圧迫されたとしても痛みは感じません。

本来、神経繊維は末端にある受容器(筋、筋膜、腱、皮膚、骨膜)からの情報を中枢へ伝えるためのもの。
損傷がない限り、末梢から中枢までの間で興奮が起こって痛みが出るということは考えにくいです。

痛覚線維の生理的興奮は、その末梢の自由終末にある痛覚受容器(侵害受容器)が刺激されたときにみられる。
自由終末と脊髄を継なぐ部分からインパルスが発生することはめったにない。

痛覚受容器を介さずに神経繊維からインパルスが発生することを異所性興奮という。
異所性興奮を生じる可能性が高いのは、脱髄部および障害された末梢神経の側芽と神経腫である。

引用:横田敏勝;臨床医のための痛みのメカニズム

上記で言われている通り、異所性興奮は例外として、基本的には痛覚受容器を介して痛みが起こります。

もし、本当に神経の圧迫が原因で痛みが起こっていたとすると、手術によって必ず痛みはなくなるはずですが、そうでもありません。

そして、神経が損傷してる場合は圧迫している要因を手術で取り除いても痛みがなくなることはありません。
ですが、手術で痛みがなくなる方もおられます。

そこで考えられるのが、炎症による痛み。

神経根周囲の椎間関節や靭帯、多裂筋など小さな筋肉でメカニカルなストレスが起こった結果、炎症が起こっている場合は痛みを感じます。
これに関しては、はっきりとした機序は分かってはいないみたいですが。

対応する筋肉の感覚異常や筋力低下による、二次的な軟部組織へのストレスやアライメント異常によるストレスの結果

神経根の圧迫で痛みは生じませんが、感覚異常や筋力低下は起こります。

例えば、大臀筋が影響を受けて筋力低下すると拮抗する骨盤前傾筋である、腸骨筋や大腿直筋などが優位に働き、骨盤は前傾方向へ偏ります。
それによって、屈筋の持続的な収縮による筋スパズム、大臀筋をはじめとした臀筋群の伸張痛、臀筋群のトリガーポイントの形成、股関節周囲の侵害受容器の刺激による痛みなどが考えられます。

二次的に起こった痛みをヘルニアの痛みと誤認している場合もあるということ。

実際、ヘルニアと診断されているのにも関わらず、リハビリによる介入でその場で痛みがなくなることを経験することも少なくありません。

これはこういったことが背景にあるのです。

腰痛を大きな枠組みで考えると、主に以下の2つ。

・椎間関節障害
・仙腸関節障害

ヘルニアの痛みだと思っていても、動作によっては痛みの部位や質が違う場合もあります。

全てがヘルニア由来ではなく、仙腸関節痛などが混在している場合もあるということ。

例えば、歩くときに腰臀部が痛い。
しかし、座っているときに痛いのはPSIS付近。

このようなケースもおられると思いますが、歩くときの痛みと座っているときの痛みは原因が違うことが予測されます。

ヘルニアのポイント

・神経損傷の有無
・炎症の有無、可能性
・二次的な痛みの可能性
・椎間関節と仙腸関節障害の鑑別
・痛みが強くなる姿勢、動作と痛みが楽になる姿勢、動作の把握
・痛みに対する破局的思考の有無
・痛みに関連する生活環境因子の有無

 

まとめ

・神経根は圧迫で痛みは起こらない
・神経痛は神経損傷によって起こるもの
・神経は末梢の受容器からの情報を中枢へ送るためのもの
・末梢と中枢の間で興奮が起こることは基本的にありえない(異所性興奮は例外)